オープニングソング「水魚の交わり(魚水情)」
エンディングソング「バイオバイオバイオ(遺伝子の舟)」
作詞作曲 楠元純一郎
編曲 山之内馨
パーソナリティー・講師 東洋大学教授 楠元純一郎
パーソナリティー・録音師 美術家 レオー
常連ゲスト 哲学者・大学外部総合評価者 松尾欣治
常連ゲスト 岡山大学教授・弁護士 張紅
<われらの商法総則7(商業登記の効力(2)一般的効力、不実登記の効力、特殊的効力)>
20200604ラジオ収録
1 登記の積極的公示力と外観信頼保護規定(民商法)との関係
登記の積極的公示力→登記後は、登記の不知について正当事由のない善意の第三者に対しても登記事実を主張できる。
他方で、民商法には、外観を信頼した第三者を保護する規定があり、その外観が登記事実と異なっていた場合、どちらを優先すべきかという問題がある。
民商法上の外観信頼保護規定の違いは、第三者が保護される要件が、民法上の表見代理の一部の規定では善意無過失(民109条、112条)であり、商法・会社法上の表見支配人・表見代表取締役の規定(商24条、会社13条、354条)では、善意無重過失(そのように解釈されている)である。
前回見たように、代理権消滅後の表見代理に関する民法112条の規定は、適用・類推適用の余地はないとする判例があった(最判昭和49・3・22民集28・2・368)。これは会社法が特別法であり、民法が一般法であるということから説明がつく。
商法・会社法の登記制度>民法の表見代理制度
しかし、会社法上の登記の積極的公示力に関する規定(会社908条1項後段)と、同じく会社法上の外観信頼保護規定の一つである表見代表取締役に関する規定(会社354条)との関係について、裁判所は、表見代表取締役の規定が積極的公示力の規定に優先するとした判例があり(最判昭和42・4・28民集21・3・796)、これをどのように説明すべきかが問題である。
これにつき、登記の積極的公示力を悪意擬制説で説明する通説は、商法・会社法上の表見支配人・表見代表取締役の規定が積極的公示力の規定に優先するのは、取引の都度登記を見なければならないことが煩雑であること等を考慮したものであり、例外であるとしている(例外説)。
商法・会社法の表見支配人・表見代表取締役制度>商法・会社法の登記制度
これに対し、商法9条1項および会社法908条1項の規定は、商人の登記義務の履行を促すための公示主義に基づくものであり、他方、民商法上の外観信頼保護規定は外観主義に基づくものであるから、次元が異なるとし、当事者は積極的公示力を主張でき、第三者は表見責任を主張できるとする説がある(異次元説)。この場合、第三者が登記を見ていなかったことの過失が問題となる。
商法・会社法上の表見責任の要件は、通説は悪意重過失であるため、軽過失が免除されることとなる。第三者が取引当初から登記を見ていなかった場合と、一度は登記を見て確認し、取引が継続していたにもかかわらず、その後、登記が変更になって、それを知らなかった場合とでは、第三者の重過失の認定に影響を与えうるのではなかろうか?つまり、最新の取引の直前に登記事実が変わっており、従来どおりと信じて登記を見なかった第三者には重過失が認められない、つまり、外観を信頼した人が保護される場合もあってしかるべきであると考える。
その他、登記に優越するようなより強力な外観がある場合、たとえば、代表取締役が退任に、退任登記をしたにもかかわらず、依然として代表取締役であるかのように振る舞い、そのような外観が存していたような場合に、それも登記後であっても登記事実を第三者に主張できない正当事由(商9条1項後段、会社908条1項後段)に含めるべきとする正当事由弾力化説がある。しかし、この正当事由は客観的事由に狭く解釈するのが通説であることから、第三者の主観的事由を認め、弾力的に広く解釈するには理論体系上問題がある。
2 不実登記の効力
「故意または過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。」(商9条2項、会社908条2項)
英米法 禁反言の原則(エストッペル)
大陸法 権利外観法理
「嘘(ウソ)が真(マコト)に」みたいになるってこと?
外観が真実に優先→公信力←商業登記
(不動産登記に公信力なし)
不実登記とは
登記事項が事実と異なること。
積極的な不実登記
消極的な不実登記(登記事項に変更があったが、故意または過失で変更登記がなされていない場合)←登記未了
不実の事項を登記した者
登記申請権限を有する者→商人・会社・その代理人→登記申請権限のないものが不実登記をしたとしても、当該規定は適用されない。
<判例>
代表取締役でない取締役が自らを代表取締役として登記をし、会社財産を処分したらどうなるか?
「当該規定が適用されるためには、登記自体が登記申請者の申請に基づいてされたものであることを要し、そうでない場合には、登記申請者がなんらかの形で当該登記の実現に加功し、または、その不実登記の存在が判明しているのにこれを放置するなど、登記が申請権者の申請に基づく登記と同視するのを相当とするような特段の事情がない限り、登記義務者は責任を負わない」(最判昭和55・9・11民集34・5・717)
取締役に選任されていない者が、不実登記によって取締役に就任したことになっていた場合、その取締役は責任を負うか?
「登記申請者でなくても、不実登記の出現に加功した者が、その不実の就任登記につき承諾を与えていた場合、同人に故意または過失がある限り、同人も登記事項が不実であることを善意の第三者に対抗できず、取締役の対第三者責任を負うべき」(最判昭和47・6・15民集26・5・984)
取締役を辞任したにもかかわらず、退任登記が未了の場合、その者は責任を負うことがあるか?
「(退任後も)取締役として積極的に対外的または内部的な行為をあえてしたとか、登記申請者である株式会社の代表者に対して、辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき、明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情がある場合にも、その者は、取締役の辞任の事実を善意の第三者に対して主張できない」(最判昭和63・1・26金法1196・26)。
善意の第三者
登記事項と事実とに食い違いがあることについて知らない第三者←登記を見たことが要件か?登記を見なかった第三者も保護すべきか?
3 特殊的公示力
設定的効力(新たな法律関係)←会社設立登記(会社49条、579条)
治癒的効力(発起人は株式会社の設立後、錯誤を理由の株式引受けの取消しを主張できなくなる。)(会社51条2項)
対抗力(商号譲渡の登記には物権変動と同様の対抗力あり)(商15条2項)
免責的効力(持分会社の社員の責任)(会社580条、612条2項)