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日语有声书连载《星期四喝可可》きまじめな卵焼き
どうしよう、輝也の絵が売れるようになったら。どうしよう、家にいてくれなくなったら。絵なんか売れないで。誰にも認められないで。ずっと私と拓海のそばにいて。
涙がつつっと流れ落ちた瞬間、スマホが鳴った。画面表示を見ると、輝也だった。
「お父さんだから、出て」
私は拓海にスマホを渡す。拓海ははしゃぎながら電話に出た。
もしもし、おとーさん! うん、うん、そうなの、ハンバーグ食べたよ。拓海の声をぼんやり聞きながら動かしていた菜箸が、次の言葉で止まった。
「すごいんだよ。おかあさん、お料理してるの。あのね、菜の花畑みたいなの。すっごくきれいでおいしそう!」
はっと顔を上げる。菜の花畑? 黄緑色の皿を使ったから、拓海にはそんなイメージが湧いたのかもしれない。ボロボロの卵の群れが、突然報われてほほえんでいるように見える。
拓海は「おかあさん、おとうさんが代わってって」とスマホを差し出した。
「朝美? すごいじゃん、何作ってるの」
輝也のやさしい声に、私はこらえきれず息を漏らした。拓海に聞かれないように奥の部屋に移り、小さな声でしゃくりあげながら伝える。
「卵焼き……お弁当の。ぜんぜんうまくできないよ。ちゃんと形にならないし、なんかべとべとしてるし」
「明日のために練習してるの? 卵焼きじゃなくてもいいじゃん、炒り卵でもゆで卵でも」
「ダメなの! 卵焼きじゃなきゃ。去年、幼稚園でもらった拓海のバースデーカードに、好きな食べものは卵焼きって書いてあったでしょ、卵焼きがないと絶対がっかりするよ」
「しないでしょう、がっかりなんて」
「する! するよ。ちゃんと本のとおりにやってるつもりなのに、なんでぜんぜん違うのができちゃうの? 卵焼きも作れないこんなダメなお母さんじゃ、拓海がかわいそうだよっ」
「朝美」
輝也がピシャリと私を制した。珍しく怒ったのかと、私は身をすくめる。でも輝也は、穏やかに言った。
「どのフライパン使ってる?」
「え? 壁にかけてあった赤くて丸いの……」
「それ、古くてテフロンはがれちゃってるから卵がくっつくでしょ。場所がちょっと違うからわかんなかったと思うけど、卵焼き用の四角いのがあるんだ。買い替えたばっかりだから使いやすいと思う。シンクの下の扉開けてみて。青い柄えだよ」
言われるままキッチンに戻り、扉を開けたら、あった。小ぶりの、長方形のフライパン。たしかに本にもこんなのが載っていたけど、私はてっきり撮影用のプロが使うものだと思っていた。
「最初によーく熱して。卵を落としたときにじゅって音がするくらいだよ。調味料は塩ひとつまみでOK。油は少量、直接じゃなくて、キッチンペーパーに含ませて引いて。たぶん、ひっくり返すタイミングがちょっと早いんだと思う。待ってるから、ちょっとやってみ」
私はいったんスマホを食器棚の端に置き、輝也の指示をたどった。その四角いフライパンは軽くて扱いやすくて、信じられないくらいきれいな卵焼きが生まれた。角にうまく卵を押し当てると、形も整えやすい。百点とはいえないけどそこそこ合格だった。
「な、なんか、できたみたい」
「でしょ」
四角いフライパンは、卵焼きを皿に移してもまだすべすべで、いっさいのこびりつきがない。
「なんて優秀なフライパン。丸いほうだと、ぜんぜんダメだったのに」
「いや、丸いのも優秀なんだよ。深くてどっしりしてて、すごく使いやすいんだ。炒めものとか麻婆豆腐作るときなんか、それが一番。ちょっとパスタ茹でたりもできるしね。いくら新しくて小回り利いても、卵焼き器に中華なんて任せられない。合った道具があるんだ」


