
日语有声书连载《星期四喝可可》きまじめな卵焼き⑦关注初声日语微信公众号,和我们一起读日语原版书! 日语有声书连载《星期四喝可可》きまじめな卵焼き どうしよう、輝也の絵が売れるようになったら。どうしよう、家にいてくれなくなったら。絵なんか売れないで。誰にも認められないで。ずっと私と拓海のそばにいて。 涙がつつっと流れ落ちた瞬間、スマホが鳴った。画面表示を見ると、輝也だった。 「お父さんだから、出て」 私は拓海にスマホを渡す。拓海ははしゃぎながら電話に出た。 もしもし、おとーさん! うん、うん、そうなの、ハンバーグ食べたよ。拓海の声をぼんやり聞きながら動かしていた菜箸が、次の言葉で止まった。 「すごいんだよ。おかあさん、お料理してるの。あのね、菜の花畑みたいなの。すっごくきれいでおいしそう!」 はっと顔を上げる。菜の花畑? 黄緑色の皿を使ったから、拓海にはそんなイメージが湧いたのかもしれない。ボロボロの卵の群れが、突然報われてほほえんでいるように見える。 拓海は「おかあさん、おとうさんが代わってって」とスマホを差し出した。 「朝美? すごいじゃん、何作ってるの」 輝也のやさしい声に、私はこらえきれず息を漏らした。拓海に聞かれないように奥の部屋に移り、小さな声でしゃくりあげながら伝える。 「卵焼き……お弁当の。ぜんぜんうまくできないよ。ちゃんと形にならないし、なんかべとべとしてるし」 「明日のために練習してるの? 卵焼きじゃなくてもいいじゃん、炒り卵でもゆで卵でも」 「ダメなの! 卵焼きじゃなきゃ。去年、幼稚園でもらった拓海のバースデーカードに、好きな食べものは卵焼きって書いてあったでしょ、卵焼きがないと絶対がっかりするよ」 「しないでしょう、がっかりなんて」 「する! するよ。ちゃんと本のとおりにやってるつもりなのに、なんでぜんぜん違うのができちゃうの? 卵焼きも作れないこんなダメなお母さんじゃ、拓海がかわいそうだよっ」 「朝美」 輝也がピシャリと私を制した。珍しく怒ったのかと、私は身をすくめる。でも輝也は、穏やかに言った。 「どのフライパン使ってる?」 「え? 壁にかけてあった赤くて丸いの……」 「それ、古くてテフロンはがれちゃってるから卵がくっつくでしょ。場所がちょっと違うからわかんなかったと思うけど、卵焼き用の四角いのがあるんだ。買い替えたばっかりだから使いやすいと思う。シンクの下の扉開けてみて。青い柄えだよ」 言われるままキッチンに戻り、扉を開けたら、あった。小ぶりの、長方形のフライパン。たしかに本にもこんなのが載っていたけど、私はてっきり撮影用のプロが使うものだと思っていた。 「最初によーく熱して。卵を落としたときにじゅって音がするくらいだよ。調味料は塩ひとつまみでOK。油は少量、直接じゃなくて、キッチンペーパーに含ませて引いて。たぶん、ひっくり返すタイミングがちょっと早いんだと思う。待ってるから、ちょっとやってみ」 私はいったんスマホを食器棚の端に置き、輝也の指示をたどった。その四角いフライパンは軽くて扱いやすくて、信じられないくらいきれいな卵焼きが生まれた。角にうまく卵を押し当てると、形も整えやすい。百点とはいえないけどそこそこ合格だった。 「な、なんか、できたみたい」 「でしょ」 四角いフライパンは、卵焼きを皿に移してもまだすべすべで、いっさいのこびりつきがない。 「なんて優秀なフライパン。丸いほうだと、ぜんぜんダメだったのに」 「いや、丸いのも優秀なんだよ。深くてどっしりしてて、すごく使いやすいんだ。炒めものとか麻婆豆腐作るときなんか、それが一番。ちょっとパスタ茹でたりもできるしね。いくら新しくて小回り利いても、卵焼き器に中華なんて任せられない。合った道具があるんだ」
日语有声书连载《星期四喝可可》きまじめな卵焼き⑥关注初声日语微信公众号,和我们一起读日语原版书! 日语有声书连载《星期四喝可可》きまじめな卵焼き 拓海と一緒にファミレスで夕食をすませて帰宅したあと、私はキッチンに立ち、フライパンを片手に特訓に入った。「卵焼きの作り方」は、本でもネットでもたくさん見て頭に入れたはずなのに、どうしてだかうまくいかない。ふっくらせずぺたんこだし、卵がフライパンにひっついてきれいに巻けない。おまけに、レシピによって卵に入れるのは塩だったり砂糖だったり醬油だったり、あるいは片栗粉や牛乳と書いてあったりもして、うちの卵焼きはどうなのかわからない。でもそんなことを輝也に電話して聞くのも憚かられた。 キッチン台の上に、崩れまくった卵焼きがどんどん並んでいく。リビングでテレビを見ていた拓海がやってきて「うわー!」と声をあげ、無邪気にこう言った。 「これ、なんていうお料理?」 その言葉に私はがっくりと脱力し、無言で新しい卵をボウルに割る。 テレビからアニメの主題歌が流れてきた。拓海は歌いながらあやしいダンスを始め、ぴょんと飛び跳ねると「ぶーん」と飛行機になってリビングに戻った。 菜箸で卵を混ぜる。シャカシャカ、シャカシャカ。どれくらい混ぜればいい? どれくらい焼けばうまくなる? 視界いっぱいの黄色がだんだんぼやけてきて、自分が泣いているのだと知って驚いた。 なんで、なんで。なんで卵焼きくらい満足に作れないのだろう。 子どものころから一生懸命勉強して、大学生になったら一生懸命就職活動して、会社に入ったら一生懸命仕事して、ずっと優秀だ優秀だと言われてきたのに。 仕方ない、私はずっと、逃げてきた。大嫌いな家事と自信のない育児を輝也に一切まかせて、仕事に逃げてきた。みんながなんでもなくできることができないコンプレックスから逃げてきた。 仕事ならどれだけでもやれる。クライアントの名前や顔は一度会ったら絶対に忘れないし、どんな大企業の重役と会っても緊張しないで堂々と意見を言える。みんなをあっと驚かせる企画を出すことも、大勢の人の前でプレゼンすることも、部下のミスのフォローも、私は誰よりもうまくこなせる自信がある。 だけど、私にはママ友ひとりいない。拓海の同級生のお母さんたちの輪がこわい。幼稚園の先生の名前すら間違える。りんごの皮を剝けば食べるところがなくなってしまうし、ゴミは全部燃えるとしか思えないし、洗濯ものを折り紙みたいに形よくたたむなんて難しい芸当、私にはできない。 唯一、家計を支えているという自負がこれまではあった。でもそれももう、私を安心させてはくれない。輝也がデイトレードでどれほどの利益を上げているのかは知らないけど、私が収入をなくしたとしてもきっと大丈夫なのだ。輝也にとって、拓海にとって、私がこの家にいる意味ってなんなんだろう。
日语有声书连载《星期四喝可可》きまじめな卵焼き⑤关注初声日语微信公众号,和我们一起读日语原版书! 日语有声书连载《星期四喝可可》 まじめな卵焼き(5) インスタグラムに載せた輝也の絵が「独特でユニークだ」と評価されて、フォロワーが増えたりコメントがきたりしているのは知っていたが、まさかグループ展のオファーがくるほどだとは思っていなかった。京都のモノ好きなギャラリーのオーナーが、まだ世に出ていない画家やイラストレーターを5人ほど集めて展覧会を開くからやってみないかと声をかけてくれたのだ。 たしかに、輝也の絵はおもしろい。一枚の風景からいろんなものが見えてくるトリックアートだ。でも、世の中にたくさんいるアーティストの卵たちの中で、輝也の作品が傑出しているかどうか、私にはわからない。私は最初、夢追い人を食い物にする詐欺師にだまされてるんじゃないかと疑い、ネットを駆使してギャラリーについて調べた。でも出てくるのはクリーンな話題ばかりで、今回の展覧会にしても交通費や宿泊費こそ出ないけど「出展料」を取られることもなく、このようなイベントはこれまで何度も行われていた。オーナーはその道でわりと知られた人らしく、いくつか顔写真つきのページにヒットした。でもどれも名前はなく、ギャラリーオーナーなのになぜか「マスター」とだけ紹介されている。地味でへろんとした顔のおじさんだけど、額の中心にあるほくろが印象的だった。有力な人脈があるのか、彼によって花開いた人も少なくないようだった。 その「マスター」からインスタ経由でダイレクトメッセージを受け取った輝也は、私に言った。 「グループ展自体は金曜から日曜だけど、搬入とか打ち合わせとかあるから、木曜日の朝に拓海を幼稚園に送ってその足で京都に行きたいんだ。だから、木曜日のお迎えと、金曜日の送迎と弁当をお願いできないかな。日曜日の最終で帰ってくるから」 私はすぐに「いいよ」とは返せなかった。「仕事あるし、無理」という非情な言葉が喉元までせりあがっていた。私が黙っていると、輝也はとりなすように言った。 「交通費とかホテル代とかなら、僕、自分で出すよ。朝あさ美みが働いて稼いでくれたお金は1円も使わないから、お願い」 絶句した。輝也はもしかしたらずっと「お金を稼いでいない自分は好きなことを我慢しなくてはならない、生活費を自分のことに使ってはいけない」などと思いながらつましく暮らしていたのだろうか。ひょっとしてこれまでも、絵を描くのに必要なものはすべて、結婚前から持っていた自分の貯金を崩して買っていたのだろうか。 私は思わず「そんなのいいよ、出してあげるから使いなさいよ」と言ってしまい、その直後にハッとした。「出してあげる」だって。不遜な自分に気づく。 しかし輝也は、そこには特に引っかからない様子で、さらりと言った。 「いや、ほんとに。お金のことはいいから。僕もそこそこ稼いでるから」 「え?」 稼いでる? 私が首を前に突き出すと、輝也はちょっとうつむきながら告げた。 「うん……言ってなかったけど、デイトレードがわりとうまくいってるんだ」 私は言葉を失った。そんなの、想像もしたことがなかった。ぽかんとしたまま輝也を見つめていると、彼はうかがうように言った。 「拓海のことお願いできる?」 うん、まあ……。仕方なく口ごもりながら承諾したが、私はそこからずっと、悶もん々もんとした不安に取り憑つかれている。 さておき、まずは目前のハードルをクリアしなければならない。 幼稚園の送迎は、その日だけ仕事をやりくりすればなんとかなるだろう。輝也がいない間の食事も、外食なりデパ地下の惣そう菜ざいなり、どうとでもできる。 問題は、金曜日の弁当だ。 赤、緑、黒、茶、そして黄。どうにも逃げられない卵焼き。
日语有声书连载《星期四喝可可》きまじめな卵焼き④关注初声日语微信公众号,和我们一起读日语原版书! 日语有声书连载《星期四喝可可》きまじめな卵焼き④ 手をつないで歩道へ出ると、拓海が顔を上げた。 「ねえねえ、おかあさん。おとうさん、飛行機に乗ったかな」 「乗ってないよ。京都には新幹線で行くんだよ」 「新幹線は、飛ぶ?」 「飛ばない」 「カナブンは飛ぶよ」 「カナブンの話なんかしてないじゃん」 「キョートゆき、たっくん号、離陸しまーす! 出発しんこーう!」 めちゃくちゃだ。おもしろいけど。 私は思わず吹き出しながら、拓海のしめった手をぎゅっと握った。 蟬が鳴いている。そういえば少し前に、拓海がお父さんと拾ったと言って蟬の抜け殻を持って帰ってきたっけ。季節の移り変わるこの道を毎日毎日、輝也はこうやって拓海と歩いているんだなと思ったら、なんだか急に仲間はずれみたいな気持ちになって、胸がきしんだ。 夫の輝也は絵を描いて暮らしている。絵を「売って」ではない。「描いて」いるばかりだ、今のところは。知り合ったときは同じ広告代理店で働く、ふたつ年下の部下だった。 結婚するまぎわになって、彼は「僕、絵を描きたいんだよ」と言い出し、「もしできるなら、会社を辞めて家事を受け持ちたい」と懇願した。 そう言われて一応「ええーっ」と驚いては見せたが、私は内心ラッキーと思っていた。ずっと実家暮らしに甘んじていた私は、それまで茶碗を洗ったこともなく、炊飯器のスイッチさえ押したことがなかったのだ。 家事なんかより仕事のほうが百倍楽しい。「絵描き志望の夫を食わせる大黒柱の妻」でいられるなら、これで大義名分ができたというものだ。 かくして私はますます仕事に精を出し、輝也はかいがいしい主夫となった。料理が上手で、シーツにまでアイロンをかけ、ちりひとつなく部屋を整える。電車で1時間ほどのところに住む私の両親とぬかりなくうまくやることも忘れない。私が妊娠して産休を取っている間も、彼は私をそれはそれは大事に扱い、拓海が生まれてからは私がしっかり睡眠を取れるように時々別室で寝させてくれた。母乳の出が悪かったのもあって早々にミルクに切り替え、仕事への復帰を早めたので、私は拓海を育児しているという実感があまりない。立ったとか歩いたとか、記念すべき瞬間に立ち会うことも一度もなかった。幼稚園に入り、手作りが強要された手提げバッグも上履き入れも、輝也は厭わずに(むしろ嬉々として)まるで売り物のような完成度の高さでそれらを作り上げた。私は「こういうのが苦手なママたちを相手に商売したら」とそそのかしてみたのだが「そんなに上手じゃないよ」と一笑された。欲がない。輝也がその気なら私がプロデュースするのに。 ともかく、我が家は完璧なコンビネーションで成り立っていたのだ。京都から誘いがくるまでは。
日语有声书连载《星期四喝可可》きまじめな卵焼き③关注初声日语微信公众号,和我们一起读日语原版书! 日语有声书连载《星期四喝可可》きまじめな卵焼き③ 私が彼女たちに背中を向けると、「誰?」「たっくんとこの」「ああ」と話しているのが聞こえた。 「パパ来ないんだー。今日は私、パートで延長保育したけど、たっくんいるからパパに会えるのかと思ったのに」と、輪の中からあきらかにがっかりな声がして、私は思わず足を止める。 なんだ、人気者なのね、輝也パパは。振り返らずに私は、再び歩き出した。 園舎に入ると、拓海がマッシュルーム頭を揺らしながら「おかあさーん」と駆けてきた。両腕をぴっと横へ伸ばして、飛行機のマネをする。乗ったことのない飛行機は拓海の憧れだ。 拓海に続き、ハタチくらいの先生が寄ってきた。たしか副担任の、えり先生だ。むきたてのゆで卵みたいに肌がつるんとしていて、ピンクのエプロンがこの上なく似合っている。 「わあ、初めてじゃないですか、ママがお迎えなんて。たっくん、よかったねえ」 またそれか。私が迎えに来ることがそんなに驚きなのか、それともみんな、そんなに輝也に会いたいのか。被害妄想かもしれないけど、普段送り迎えしないことをみんなに責められているように思えた。 拓海はロッカーから通園バッグを取り出し、先生に向かって「おとうさん、キョートなの」と得意気に話した。先生が拓海と目線を合わせるように中腰になる。 「キョート? 旅行なのかな?」 「ううん、おしごと!」 「へえ、パパ、お仕事始めたの?」 私は先生に「仕事ってほどじゃないんですけどね」と答えながら、通園バッグを拓海の肩にかけた。 「たっくんちはトーキョーで、おとうさんはキョート。トーキョーとキョート」 拓海は覚えたての地名をうれしそうに唱えながら玄関へ走り出していく。5歳児の脳は、新しいものを取り入れるのが楽しくて仕方ないらしい。 園舎の窓から、まだ話し込んでいるお母さんたちの輪が見えた。私は先生に「あの、あそこのボーダーシャツの方、誰のお母さんでしたっけ」と小声で訊ねた。 「ああ、瑠る々るちゃんのママ。添そえ島じま瑠々ちゃん」 そえじま、そえじまるるちゃんね。私は頭の中で復唱し、言われてみれば入園式のとき隣の席に彼女がいたような、うっすらとした記憶がよみがえってきた。そのとき挨拶と簡単な自己紹介をしたかもしれない。 「じゃ、失礼します、えり先生」 頭を下げたら、先生のエプロンに「えな」と刺繡されたワッペンが縫い付けられているのに気づいた。しまった、「えり」じゃなくて「えな」だ。 しかし先生はまったく気にするふうでもなく、笑顔で「さようなら」と言って他のお母さんのところに行ってしまった。 はい、さようなら。逃げるように園舎を飛び出す。バカな親って思われたかな。暑さのせいだけじゃない変な汗が、額からにじみ出た。
日语有声书连载《星期四喝可可》きまじめな卵焼き②关注初声日语微信公众号,和我们一起读日语原版书! まじめな卵焼き(2) さっきカフェでめくった弁当づくりの本には、「おいしそうに見せる基本の5色」が載っていた。赤、緑、黒、茶、黄。赤のプチトマトは入れるだけだから楽勝。緑はブロッコリーで、茹で具合に自信はないけどそう難なくいけるだろう。黒は苔り、小さなおにぎりを作るとして、茶色はウィンナーを炒いためればいい。よくわからないけど、切り目を入れればタコだとかカニだとかになるはず。 黄色。 そう、問題は、黄色。黄色い食べ物って、そして弁当って、もうアレしかない。 幼稚園の門が見えてきた。考えてみたら、幼稚園に拓海をお迎えに行くのも初めてだった。入園してから2年以上たつのに、私がこれまで幼稚園を訪れたのは、入園式と運動会、クリスマス会くらいのものだ。どれも輝也と一緒に、ビデオカメラを回した。でも今日は、隣に輝也がいない。ひとりでは心もとなくて緊張しながら門をくぐると、横から誰かに「こんにちは」と言われた。 そちらを向くと、4人のお母さんたちがぐるりと輪になっている。そのまわりで子どもたちが追いかけっこをしていた。お母さんも子どもも、誰ひとり見覚えがなくて私は体をこわばらせる。 ボーダーのシャツを着た、お母さんのひとりが私を見ていた。声をかけてくれたのは彼女だろう。ぱさついた髪の毛を後ろでひとつにくくり、銀縁の眼鏡をかけている。 「今日はパパじゃないのね」 「あ、はい、ええ」 誰だっけと思いながら、私はせいいっぱいの愛想笑いをした。ボーダーさんは、私に話しかけたはいいものの、それ以上の会話が広がらないらしくて苦笑いをしている。私は早く場を離れたくて、お辞儀をしつつ園舎に体を向けた。他のお母さんたちもぎこちない笑顔で会釈しながら、私に視線を走らせているのがわかる。
日语有声书连载《星期四喝可可》きまじめな卵焼き①关注初声日语微信公众号,和我们一起读日语原版书! 日语有声书连载《星期四喝可可》きまじめな卵焼き① マーブル・カフェを出ようとしたら、鞄から本が飛び出ていることに気がついた。ファンシーな絵柄の表紙は、せっかくのバーキンにまったく不釣り合いだ。私は本を鞄の奥にしまい直し、息子の拓海を迎えに幼稚園へ向かった。 息子が通う幼稚園は通常午後2時がお迎え時間なのだが、4時まで預かってくれる延長保育というシステムがあるらしい。夫の輝也があらかじめ申請しておいてくれたおかげで、私は早退する前に午後一番の社内ミーティングをこなすことができた。思ったより早く終わったので、川沿いにあるお気に入りのカフェでお茶しながら明日の作戦を練るつもりだった。 マーブル・カフェは私のとっておきだ。桜並木の端にちょこんとあって、窓から四季折々の風景が楽しめる。インテリアがやさしげで落ち着くし、店員の男の子が若くてキュートで目の保養にもいい。今どき珍しいタイプの純朴青年。彼の作るホットサンドは、派手ではないけどていねいな仕上げで、どこかなつかしい味がする。料理ってその人が出るなあとつくづく思う。 でも今日は、あまりゆっくりくつろげなかった。未開のジャンルに足を踏み入れようと本を広げたところに、仕事の緊急メールが入ったからだ。ミスをした部下からのヘルプ依頼だった。急いで部下に指示を出し、クライアントに私から謝罪をしてフォローを入れる。 タブレットを使ってメールに集中していたら、テーブルに置いていた本をばさばさと床に落としてしまった。買ったばかりの新品だったのに角が折れて、大きなため息が出た。なんだか「失敗するよ」と誰かに言われたみたいで。 腕時計を見ると、お迎え時間の4時になろうとしていた。7月中旬の陽射しは、この時間になってもまだ暑い。太陽にまで追い立てられている気分になって、ストッキングのはりつく足を速める。仕事のファイルに加え、特集誌を2冊入れているせいでショルダーバッグがパンパンだった。 幼稚園は、橋を渡った向こう岸にある。今から拓海をピックアップして、ファミレスで早めの夕食を食べて、帰宅して、そのあとは……。ああ、拓海を風呂に入れたり寝かしつけたりしなくちゃいけないんだった。今日は練習することがあるのに。仕事よりもうんと荷が重い、結婚してから最大のミッション。 私は明日、初めて拓海の弁当を作らなくてはならない。
日语有声书连载《星期四喝可可》木曜日にはココアを(7)初声日语有声书连载,欢迎一起来读书,关注微信公众号“初声日语”回复关键字“喝可可”即可获取朗读打卡入口。 ----------- 二杯目のココアを運んでいくと、彼女はいつものようにエアメールを書き始めていた。テーブルにカップを置こうとした瞬間、突然「あの」と声をかけられた。びくっとして手元が狂う。揺さぶられたカップからココアが数滴、便箋に飛び散った。 「す、すみません、すみません!」 せっかくいい感じだったのに、痛恨のミス。頭のてっぺんから足先まで、波が引くようにさーっと血が降りていく。僕はあわててペーパーナプキンでそれを拭こうとした。 「待って!」 ココアさんの手が僕の手に重なる。今度は魚みたいに心臓が跳ねた。 「見て、ココアのハート!」 ハート? そう言われてよく見ると、少々いびつだけど、たしかにココアが茶色くハートをかたどっていた。 「おもしろーい。このまま送っちゃおう」 ココアさんは、虹を見つけた子どもみたいにはしゃいだ。こんなふうに笑ったりするんだ。僕の中の魚は、さっきからぴょくぴょくと跳ねまわっておさまらない。 「ホットココアでお温まりください、って書いておきますね」 ココアさんはそう言いながら、エレガントな手つきで流れるような英文を書いた。 いつもの席でいつものように、気持ちよさそうにほほえんで。 僕は知った。この小さな世界でも、奇跡はちゃんと起こる。初めて触れたやわらかな手。僕だけに向けられた楽しそうな笑顔。 ココアのハートのすぐそばに記された「My dear best friend, Mary」。英語のできない僕でも意味はわかるよ。メアリーという、一番大切な友達への手紙。 ココアさんがどうして泣いていたのかはわからないけど、とりあえずエアメールの相手は遠距離恋愛中の恋人じゃなかったのかなと、僕はにやけた顔をトレイで隠した。
日语有声书连载《星期四喝可可》木曜日にはココアを(6)ばさばさっと音がして、本が2冊床に落ちた。いつもココアさんが座る席でタブレットを開いていたお客さんだ。がっかりしたように大きなため息をつき、彼女は本を拾った。なんだか今日、この店に来る女の人はみんな困った顔をしている。 「やだ、もうこんな時間」 お客さんは腕時計を見ると高級そうな黒いバッグに本をつっこみ、急ぎ足でレジに向かった。 そのお客さんには申し訳ないけど、僕は「しめた!」と思った。手早く会計をすませ、トレイを持ってあのテーブル席に走る。アイスコーヒーの入っていたグラス、半分減っている水のコップ、おしぼり、ストローの袋。「片づけ選手権」があったら優勝できるんじゃないかというくらいのハイスピードでそれらをトレイに載せ、テーブルを拭いた。 「空きました」 うわずった声でココアさんに言うと、彼女はきょとんと顔を上げた。よけいなことしたかなと一瞬ひるんだけど、なんとか気持ちを伝えたくて、僕は勇気を振り絞る。 「いつもの場所です。好きなところにいるだけで、元気になることもあると思います」 ココアさんは大きな目をさらに大きく見開き、空いたばかりの席をびっくりした表情で振り返った。 そして次の瞬間、ふわあっと雪が溶けるみたいに笑った。 「ありがとう。そうかもしれませんね」 ココアさんはいつもの席に移り、少しの間、窓の外を眺めていた。そしてココアを一杯飲み終えたあと、珍しくお代わりをしてくれた。
日语有声书连载《星期四喝可可》木曜日にはココアを(5)7月半ばになって、梅雨明けの空がまぶしい季節が来た。 木曜日。午後3時が過ぎ、そわそわしているといつものように扉が開いた。 でも、ココアさんはいつもと違った。見るからにぐったりしていて、トートバッグを提げた肩をだるそうに落としている。タイミング悪く、彼女のお気に入りの席には先客がいた。パリッとしたブラウスにタイトスカートを穿いた、頭の良さそうな女の人だ。テーブルには本が数冊置かれ、しきりにタブレットを操作している。ココアさんはその女の人に目をやったあと、いつもの席に背を向けるようにして中央の空いているテーブルについた。 僕が水とメニューを持っていくと、汗ばむような暑い日だというのに、ココアさんはやっぱりお決まりのホットココアを注文した。そのときだけちょっと僕を見てくれて、でもすぐにテーブルへと目を落としてしまった。 僕がホットココアを運んだあとも、ココアさんはじっとうつむいていた。レターセットも、万年筆も、ペーパーバックも出さなかった。テーブルの端を、ただただ凝視している。 僕は見てしまった。はらり、と涙が彼女の頰を伝うのを。 駆け寄りたかった。でもできなかった。 ココアさんにとって僕なんて、自動販売機のボタンに過ぎないのだ。彼女はきっと、身なりからして育ちのいいお嬢さまで、英語がペラペラで、外国に長期間、あるいは何度も行っていて、おそらくエアメールの相手は遠距離恋愛中の恋人で、このカフェ以外では僕とまるで重なるところのない、遠い遠い世界で生きている人だ。 でも今、この瞬間の僕は、触れるのも可能なくらい近くにいて、できることなら彼女の涙をぬぐいたいと思っている。大丈夫だよって、そっと手を握りたいと思っている。 そんな奇跡は絶対、起こらないけど。何が大丈夫なのかも、よくわからないけど。 カフェ店員と常連客。エプロンを外せない僕が、ココアさんにできることといったら……できることといったら……。
日语有声书连载《星期四喝可可》木曜日にはココアを(4)それから2年間、僕はマーブル・カフェをひとりできりもりしている。もちろん経営者の名義はマスターのままで、僕は雇われ店長みたいなものだ。いきなり店をひとつポンと託されるなんてどう考えてもおかしいのだが、そんなありえない状況は僕に疑問を抱く隙さえ与えなかった。チェーン店のようなマニュアルはなく、マスターが教えてくれたのは戸締りの方法ぐらいだ。必死で試行錯誤していくうちに少しずつ常連さんが増えて、親戚みたいに僕をかわいがってくれるおばあさんや、幼稚園帰りの子どもを連れたお父さんがよく顔を見せてくれるようになった。すっかり僕らしく色づいたこのカフェに、マスターは気まぐれにふらりとやってきては、壁の絵を取り替えたり、客のふりをしてカウンターでスポーツ新聞を読んでいる。 僕のテリトリーは、2階建ての賃貸ワンルームとこのカフェだけだ。でも、僕はこの小さな世界でじゅうぶん満たされている。部屋は古くて狭いながらも2口ガスコンロで料理しやすいのが気に入っているし、なにより、このカフェを愛している。そして贅沢なことに、栗色の髪の聡明なお客さんに、恋までしている。 店員が客に恋するなんて、あるまじきことかもしれない。でも片想いでいいんだ、ぜんぜん。マスターの言葉を借りれば、夢でいい。片想いって、悪くない。ただ好きでいる。それだけのことがパワーをくれる。だから僕は、僕にできうる限りを尽くす。たとえば、そう。 木曜日には、とびきりおいしいココアを彼女に捧ささげる。それがすべてだ。 [图片] [图片]
《星期四喝可可》木曜日ココアを③木曜日にはココアを(3) 店は狭かったけど、なんともほっとする空間だった。行き場のない僕に、「席」があることがなんだかありがたく思えた。初めて訪れたのに自分の部屋に帰ってきたような安堵感。チェーン店のがちゃがちゃした騒がしさとは対極だった。こんなところで働けたら……。 店内を見回し、僕は息を吞んだ。店員らしき男性がちょうど壁に「アルバイト募集」の紙を貼っているところだったのだ。なんというタイミング。僕はどきどきしながらカウンターに座った。 紙を貼り終えた店員がメニューと水を持ってやってきた。50歳ぐらいだろうか。小柄で痩せていて、のほほんとした顔だけど、おでこの真ん中にあるほくろがなかなかのインパクトだった。僕は洒落たデザインのメニューに目を落とし、値段を確認しながら注文をした。 「ホットコーヒーをください」 「ホットね」 ほくろの男性がカウンターの中に入る。コポコポとサイフォンでコーヒーを淹れる姿を、僕はじっと見ていた。 「あの……店長さん、ですか」 「ん。マスターって呼んで。夢だったんだよね、喫茶店でコーヒー淹れるマスター」 マスターはカウンター越しにコーヒーを差し出した。豊かな香りがたちのぼるカップは素焼きだった。飲んでみるとじんわりとやわらかなコクがある。僕はそのひとくちで決心をし、椅子から立ち上がった。 「アルバイトの面接、お願いできませんか。ここで働きたいんです」 マスターは真顔で黙ったまま5秒ほど僕を見て、こう言った。 「いいよ。じゃ、正社員ね」 僕はぽかんと口を開けた。まだ名前すら伝えていないのに? しかも、アルバイトじゃなくて正社員? 「でも、履歴書とか、身分証明書とか」 「いらない。俺、見る目だけはあるんだ。アルバイトのほうがいいの? 正社員だと困る?」 「そんなことは……」 「じゃ、決まりね」 マスターはカウンターを出ると、アルバイト募集の貼り紙をぺりぺりとはがした。 そんなふうにして僕はマーブル・カフェの正社員となったわけだけど、マスターはそれからすぐ「しばらく留守にするから、あとはワタルくん、適当にひとりでやって」と言い出した。 「いずれ誰かに譲るつもりでいたんだ。思ったより早く君が来てくれてよかったよ」 「だって、喫茶店でコーヒー淹れるマスターが夢だったんじゃないんですか?」 釈然とせずに訊ねると、マスターはなぜかうっとりするようなまなざしで答えた。 「夢はかなったところから現実だから。俺、夢が好きなの。だからもういいんだ」
《星期四喝可可》木曜日ココアを②木曜日にはココアを(2) 僕は英語なんて、てんでわからない。「手紙」というものを書いたのも、いつが最後だったか思い出せないくらいだ。 だから彼女が異国の地に向けて日々の出来事や気持ちを伝えたり、あちら側から受け取ったりしていることが、まるで架空の世界で起きているように感じる。トレーシングペーパーみたいに薄い便箋、トリコロールが縁取りされた封筒。このIT時代に長文を手書きしてるっていうこと自体がちょっと謎めいているのに、こんなレトロなアイテムを愛用しているココアさんは、ますます現実離れして見える。横を通ったときにちらりと目を走らせたら、彼女は万年筆で美しい筆記体を綴っていた。どんな魔法の呪文が書かれているんだろう。 便箋に文字を書きつけているときのココアさんを見るのが、僕はとても好きだ。唇がゆるやかに弧を描き、白い頰に赤みが差す。まばたきをするたび、伏せた目元で焦げ茶色の長いまつ毛が影絵を作る。 そんなときのココアさんは、決して僕を見ない。だから僕は、彼女をじっと見ていられる。手紙の相手のことをほんとうに大切に想っているんだなと、ほほえましさと軽い嫉妬が心の中で手を取り合う。 僕がここで働くようになったのは、2年前の初夏だ。 川沿いを歩きながら、葉桜になった並木の下で「この木はどこまで続いているのかな」とぼんやり思ったのが始まりだった。 そのとき僕は、無職だった。高校を卒業してから勤めていたチェーンのレストランが経営不振になり、リストラに遭ってしまったのだ。その日もハローワークの帰り道で、就職活動もうまくいかず、不安と時間だけはたっぷりとあった。ひまにまかせて木が途切れるまで進んで行ったら、生い茂る葉の陰に店があるのを見つけた。 こんなところにカフェが。僕は財布の中の小銭を確認してからドアを開けた。コーヒー一杯くらいなら飲めるはずだ。
《星期四喝可可》木曜日ココアを①《木曜日にはココアを》,中文名《星期四 喝可可》,作者:日本治愈系作家青山美智子。 第一章 木曜日にはココアを(1) 僕の好きなその人は、ココアさんという。 ほんとうの名前は知らない。僕が勝手にそう呼んでいるだけだ。 僕が勤めている「マーブル・カフェ」の、窓際、隅の席。 半年くらい前から、彼女はひとりで来て、必ずそこを選んで座る。 オーダーはいつも同じ。 「ホットココアを、お願いします。」 雨あがりの雫みたいな瞳で僕を見上げて、肩まで流れる栗色の髪を揺らして。 マーブル・カフェは、静かな住宅街の隅にある。 川沿いの桜並木がちょうど終わるあたりで、大木に隠れるように建っている小さな店だ。橋を渡った向こう岸にはいくつか店や施設があるのだが、こちら側は民家ばかりで人通りも少ない。広告を出すことも雑誌が取材に来ることもなく、知る人ぞ知るカフェのまま灯りをともし続けている。 テーブル席が3つと、5人ほど座れるカウンター席。ぼっくりした木のテーブルと椅子、天井から吊り下がったランプ。 満席になることもないかわりにからっぽになることもなくて、僕は毎日、エプロンをきゅっと締めてお客さんを迎える。 ココアさんが来店するのは決まって木曜日だ。 午後3時を過ぎたころに扉を開き、そこから3時間ぐらいこのカフェで過ごす。 そしてだいたい、長い英文のエアメールを読んだり書いたり、英語のペーパーバックを読んでいたり、窓の外を眺めていたりする。平日の昼下がりにここへ来るお客さんは親子連れやお年寄りが多くて、ココアさんのような若い女の人は珍しい。学生ではなさそうだし、結婚指輪もしていない。成人式から3年たった僕よりも、たぶん少しばかり年上なんだろうと思う。