

- 流星コーリング
「流星コーリング」河邉 徹 夜空を見上げて、時々思う。 我时常仰望夜空,渊思而寂虑。 この宇宙の中で、自分はちっぽけな存在であるということ。 在这浩瀚宇宙中,自己仅犹沧海一粟。 夜空を見上げて、時々思う。 我时常仰望夜空,渊思而寂虑。 どうして、自分は自分で生まれてきたのかということ。 为何自己会成为自己,降生于世。 夜空を見上げて、時々思う。 我时常仰望夜空,渊思而寂虑。 喜びと悲しみは、この世界でうまく釣り合っていないということ。 喜悦与悲伤,在这世间难取平衡。 例えば、喜びと悲しみが両端に乗る、シーソーを想像してみるとわかりやすい。 譬如:试想一座喜悦悲伤载于两端的跷跷板,便容易理解。 思えば、心の中にあるシーソーは、いつだって悲しみに傾いていた。 回想起来,心中的跷跷板总是倾于悲伤一侧。 ほんの少しの喜びが逆側に乗ったところで、シーソーはビクともせず、悲しみに沈んだままだ。 即便少许喜悦载落彼端,跷跷板也毫不动摇,沉溺悲伤如故。 「今夜、人工流星が流れます」 “今夜,人造流星将划破苍穹。” 朝、ニュース番組から聞こえるその声が印象的だった。 清早,新闻节目所传之声让人印象深刻。 ——人工流星。 ——人造流星。 人は、人工的に流れ星を作ることができるようになったらしい。 人类似乎能够人工制造流星了。 今夜、この広島の街で、みんなが夜空を見上げるのだろう。 今夜,想必广岛的街头巷尾,大家都会仰望夜空吧。 「一緒に、願い事しようよ」と、一年生の頃に、俺を天文部に誘った君の言葉を思い出した。 “一起许愿吧。”我想起一年级,你邀请我去天文社时说的话。 天文部の仲間で集まって、みんなで流れ星を観に行くことになった。 天文部的伙伴们齐聚一堂,一同前去观望流星。 夜、宮島口駅で集まった俺たちは、フェリーで宮島へと渡った。 入夜,我们在宫岛口站集合,乘渡船去宫岛。 そして、時間通りに人工流星は始まった。 随后,人造流星准时伊始。 宮島の上に浮かび上がる、幾つもの流れ星は、まるで光が宇宙から降り注いでいるようだった。 宫岛上空飘浮着数颗流星,宛若宇宙光芒倾泻而下。 次の日目を覚ますと、体に微かな違和感があった。 次日醒来,我感觉身体稍有违和。 リビングに行くと、テレビがついている。 走进客厅,电视亮着。 「今夜、人工流星が流れます」 “今夜,人造流星将划破苍穹。” 昨日の朝と同じニュースが、また聞こえてきた。 昨日清早别无二致的新闻再次传来。 不思議に思いながらも、俺は学校へ向かった。 尽管觉得不可思议,我还是前去学校。 街の景色。友達との会話。授業の内容。全てが、昨日と同じだった。 街上的景色、与朋友的对话、授课的内容,一切都与昨日别无二致。 俺は時間をループしている? 我陷入时间循环了吗? いや、そんなことありえない。 不,这不可能。 夢でも見ているのだろうか。明日が来ないなんて、一体何が原因だろう。 我在做梦吗。究竟有何原因,导致明日久不到来。 まさか……人工流星? 难道……因为人造流星? 時計の針が逆に進む。それぞれの過去が明らかになる。 时针倒转。各自的过去一一揭开。 喜びも、悲しみも、時の流れも、全てを巻き込んで、今物語が始まる。 喜悦也好,悲伤也罢,连同时间流逝,一并卷入其中,此刻故事伊始。 夜空を見上げて、時々思う。 我时常仰望夜空,渊思而寂虑。 星の流れと共に、人は生きているのだということ。 伴随斗转星移,人们安生乐业。 夜空を見上げて、時々思う。 我时常仰望夜空,渊思而寂虑。 この広い宇宙の中で出会えたことは、奇跡なのだということ。 在这浩瀚辽阔的宇宙当中,相遇彼此便是奇迹。 夜空を見上げて、時々思う。 我时常仰望夜空,渊思而寂虑。 大切な人が、こんなにも近くにいるのだということ。 原来重要之人,如此近在咫尺。 人が星を降らすことができるのなら、人は奇跡を作り出せるということだ。 倘若人能降下荧星,那么说明人能创造奇迹。 もしも、君の世界を悲しみが包み込んだとしても、俺は夜空に流れ星を降らして、君に奇跡を見せてあげよう。 即使悲伤笼罩你的世界,我仍会在夜空呼唤流星,将奇迹展现予你。 たとえ明日が来ないとしても、俺は君の事を明日も愛している。 即便明日永不到来,我在明日依旧爱你。
- 幸福
「幸福」島崎藤村 「幸福」がいろいろな家へ訪ねて行きました。 誰でも幸福の欲しくない人はありませんから、どこの家を訪ねましても、みんな大喜びで迎えてくれるにちがいありません。けれども、それでは人の心がよく分りません。そこで「幸福」は貧しい貧しい乞食のような服装をしました。誰か聞いたら、自分は「幸福」だと言わずに「貧乏」だと言うつもりでした。そんな貧しい服装をしていても、それでも自分をよく迎えてくれる人がありましたら、その人のところへ幸福を分けて置いて来るつもりでした。 この「幸福」がいろいろな家へ訪ねて行きますと、犬の飼ってある家がありました。その家の前へ行って「幸福」が立ちました。 そこの家の人は「幸福」が来たとは知りませんから、貧しい貧しい乞食のようなものが家の前にいるのを見て、 「お前さんは誰ですか。」と尋ねました。 「わたしは「貧乏」でございます。」 「ああ、「貧乏」か。「貧乏」は吾家じゃお断りだ。」 とそこの家の人は戸をぴしゃんとしめてしまいました。おまけに、そこの家に飼ってある犬がおそろしい声で追い立てるように鳴きました。 「幸福」は早速ごめんを蒙こうむりまして、今度は鶏の飼ってある家の前へ行って立ちました。 そこの家の人も「幸福」が来たとは知らなかったと見えて、いやなものでも家の前に立ったように顔をしかめて、 「お前さんは誰ですか。」 と尋ねました。 「わたしは「貧乏」でございます。」 「ああ、「貧乏」か、「貧乏」は吾家じゃ沢山だ。」 とそこの家の人は深い溜息ためいきをつきました。それから飼ってある鶏に気をつけました。貧しい貧しい乞食のようなものが来て鶏を盗んで行きはしないかと思ったのでしょう。 「コッ、コッ、コッ、コッ。」 とそこの家の鶏は用心深い声を出して鳴きました。 「幸福」はまたそこの家でもごめんを蒙りまして、今度は兎の飼ってある家の前へ行って立ちました。 「お前さんは誰ですか。」 「わたしは「貧乏」でございます。」 「ああ、「貧乏」か。」 と言いましたが、そこの家の人が出て見ると、貧しい貧しい乞食のようなものが表に立っていました。そこの家の人も「幸福」が来たとは知らないようでしたが、なさけというものがあると見えて、台所の方からおむすびを一つ握って来て、 「さあ、これをおあがり。」 と言ってくれました。そこの家の人は、黄色い沢庵たくあんのおこうこまでそのおむすびに添えてくれました。 「グウ、グウ、グウ、グウ。」 と兎は高いいびきをかいて、さも楽しそうに昼寝をしていました。 「幸福」にはそこの家の人の心がよく分りました。おむすび一つ、沢庵一切 ひときれにも、人の心の奥は知れるものです。それをうれしく思いまして、その兎の飼ってある家へ幸福を分けて置いて来ました。 “幸福”拜访过很多的家庭。 谁都想要得到幸福,所以不管“幸福”去拜访哪个家庭,大家一定都会欣喜若狂地迎接它。但是,那样的话就不能了解人心了。于是,“幸福”就穿得像个穷乞丐。 如果有人问它,“幸福”都打算不说自己是“幸福”,而说自己是“贫穷”。即使“幸福”穿着贫穷的衣服,还有人愿意迎接自己的话,“幸福”就会把幸福分给他。 就这样,“幸福”去拜访各式各样家庭的时候,发现了养着狗的一户人家。“幸福”走到那家门口前站着。 那家人并不知道是“幸福”来了,他们只看到家门口有一个贫穷的乞丐,就上前询问:“你是谁?” “我是‘贫穷’。” “啊,你是‘贫穷’啊。我们家不收留‘贫穷’。” 说完,那家人就把门关上了。而且,家里养的狗也发出了可怕的叫声,仿佛是要把它赶走一样。 “幸福”立刻道歉,转身离开。它走到了一家养鸡的家门口。 那户人家似乎也不知道“幸福”来了,看到“幸福”就像看到讨厌的东西一样,站在家门口皱着眉头,问道:“你是谁?” “我是‘贫穷’。” “啊,‘贫穷’啊,‘贫穷’我们家已经够多了。” 那户人家的人深深地叹息了一声。接下来他注意到了自己养的鸡。心里想着这个穷苦的乞丐不会是来偷鸡的吧。 “咯,咯,咯,咯。” 那家的鸡发出小心翼翼的叫声。 “幸福”也向养鸡的这户人家道了歉,然后来到了养着兔子的家前。 “你是谁?” “我是‘贫穷’。” “啊,是‘贫穷’啊。” 那户人家出来一看,外面站着一个穷困潦倒的乞丐。那户人家似乎也不知道“幸福”来了,但看起来很好客,从厨房那边捏了一个饭团,说: “来,吃这个吧。” 那户人家的人把黄萝卜咸菜也捏在饭团里。 “咕,咕,咕,咕。” 兔子打着很大声的呼噜,一脸幸福地在窝里睡午觉。 “幸福”已经了解到了这户人家的人。一个饭团、一点咸菜,就能窥到人的内心。因此“幸福”感到很高兴,就把幸福分给了养着兔子的那户人家。
- 朝焼けの白猫
「朝焼けの白猫」夜咄頼麦 夏の孤島で夜明け前に散歩に出た。 島を一周して、日の出を見てやろうという算段だ。 民宿の扉を静かに開け、まだ薄暗い夜明け前の階段を慎重に下っていく。 海沿いは観光地、標高の高い場所は島民の住宅地になっているこの島には坂道が多い。 少年期から通う島ゆえ、歩きなれた道を行くとすぐに海に出た。 日中の浜辺は海水浴のために活気づくのだが、日のない時間は閑散とする。 日の出前などはもちろんのことで、人っ子ひとり見当たらない浜を悠々と歩く。 空は薄い紫の雲で、都会の日常を生きているとなかなかお目にかかれない。 ゆっくり歩いていくと、にわかに水平線が白み始める。日の出が近い。 まだ島の東に着いていなかったので、私は少し歩を早めた。 東の浜に着くと間もなく金色の光に包まれていく。 寝起きの体に日のぬくもりが染みていく。 目を細めて水平線を見ていると、背後から私の気を引くような鳴き声がした。 振り向くと真っ白な猫だ。 日の光を背にして、ここが特等席とばかりに石垣の角に座っている。 きっと毎朝、日を浴びるのが日課で、影をつくって邪魔をした私に、どいてくれと声をかけたのだ。 その表情は強く、絶対にここは譲らないとの意志を感じる。 私は猫に向かって「ごめんね」と声をかけながら、少し左にずれた。 すると猫は頷いたと見えるや、すぐに眩しそうに後ろを向いてしまった。 まぶしいからいつも後ろ向きで座って暖まっているのだろう。 先輩の知恵に学び、日の光に背を向ける。 猫は少しこちら側に目を向けてはいるが、逃げるそぶりもなく心地よさげだ。 当然、初めて出逢ったはずの猫だが、なんだか懐かしく感じて、私はしばらく動かずにいた。 日常に戻っても、朝日を浴びる習慣を続けよう、なんて考えながら。 我在黎明前,去到了一个与世隔绝的夏日小岛上散步。 我打算绕岛一周,观赏日出。 我悄悄地打开民宿的门,小心翼翼地走下黎明前昏暗的楼梯。 岛上有很多坡道,海滨是观光景点,高处是岛民的住宅区。 因为我少年时期经常来这座岛,所以只要走熟悉的路,没多久就能来到海边。 白天的海滨有不少人来海水浴,很是热闹,但此外的时间就很冷清。 日出前自也是如此,于是我得以在杳无人迹的海滩上悠然漫步。 天空漂浮着淡紫色的云,平日生活在都市里是很难见到的。 我慢慢走着,地平线忽然开始泛白。日出临近了。 我还没到达岛的东边,便只好稍稍加快了脚步。 在我刚到东边的海滩后不久,我就被金色的光芒笼罩了。 阳光的温暖渗入我刚睡醒的身体。 我眯起眼睛看向地平线,背后传来一声叫声,引起了我的注意。 我回头一看,是一只雪白的猫。 它坐在石墙的一角,背对着阳光,仿佛那儿就是特等席。 它一定每天早上都要晒太阳吧,所以在我的阴影妨碍到它后,它便叫我让开。 它的表情很强硬,我可以感觉到它绝不会在这里退让的决心。 我对猫说了声“对不起”,稍稍向左偏了偏。 猫似乎对我点了点头,然后马上就因为阳光太晃眼似的背过身去。 因为太耀眼,所以总是背对着坐着取暖吧。 学习了前辈的智慧,背对阳光。 猫稍稍朝我这边看了一眼,没有要逃跑的样子,反倒一脸舒服。 自然,我是第一次见到这只猫,但不知为何总觉得有些怀念,在原地久久不动。 我想,即使回到日常生活中,我也要继续坚持沐浴朝阳的习惯。
- 俺为啥要做小宇宙!
请大家忽略我的口头禅「就是」「然后」 还有我那不怎么清晰的逻辑和匮乏的语言表达🙏 我要加油加油加油加油!!!!!
- 星の銀貨
グリム兄弟「星の銀貨」 むかし、むかし、小さい女の子がありました。この子には、おとうさんもおかあさんもありませんでした。たいへんびんぼうでしたから、しまいには、もう住むにもへやはないし、もうねるにも寝床(ねどこ)がないようになって、とうとうおしまいには、からだにつけたもののほかは、手にもったパンひとかけきりで、それもなさけぶかい人がめぐんでくれたものでした。 でも、この子は、心のすなおな、信心のあつい子でありました。それでも、こんなにして世の中からまるで見すてられてしまっているので、この子は、やさしい神さまのお力にだけすがって、ひとりぼっち、野原の上をあるいて行きました。すると、そこへ、びんぼうらしい男が出て来て、 「ねえ、なにかたべるものをおくれ。おなかがすいてたまらないよ。」と、いいました。 女の子は、もっていたパンひとかけのこらず、その男にやってしまいました。そして、 「どうぞ神さまのおめぐみのありますように。」と、いのってやって、またあるきだしました。すると、こんどは、こどもがひとり泣きながらやって来て、 「あたい、あたまがさむくて、こおりそうなの。なにかかぶるものちょうだい。」と、いいました。 そこで、女の子は、かぶっていたずきんをぬいで、子どもにやりました。 それから、女の子がまたすこし行くと、こんど出て来たこどもは、着物一枚着ずにふるえていました。そこで、じぶんの上着(うわぎ)をぬいで着せてやりました。それからまたすこし行くと、こんど出てきたこどもは、スカートがほしいというので、女の子はそれもぬいで、やりました。 そのうち、女の子はある森にたどり着(つ)きました。もうくらくなっていましたが、また、もうひとりこどもが出て来て、肌着(はだぎ)をねだりました。あくまで心のすなおな女の子は、(もうまっくらになっているからだれにもみられやしないでしょう。いいわ、肌着もぬいであげることにしましょう。)と、おもって、とうとう肌着までぬいで、やってしまいました。 さて、それまでしてやって、それこそ、ないといって、きれいさっぱりなくなってしまったとき、たちまち、たかい空の上から、お星さまがばらばらおちて来ました。しかも、それがまったくの、ちかちかと白銀色(はくぎんいろ)をした、ターレル銀貨でありました。そのうえ、ついいましがた、肌着をぬいでやってしまったばかりなのに、女の子は、いつのまにか新しい肌着をきていて、しかもそれは、この上なくしなやかな麻(あさ)の肌着でありました。 女の子は、銀貨をひろいあつめて、それで一しょうゆたかにくらしました。 星星银币 很久很久以前,有一个小女孩,她没有爸爸妈妈。 她实在是太贫穷了,一路下来,已经没有房间可住,也没有床褥可睡。 最终,她身上只剩衣衫褴褛,以及手里的一块面包。这块面包还是好心人送的。 不过,这个小女孩心地善良,信仰虔诚。 然而这样的好孩子还是宛如遭到世人抛弃一般无依无靠,只得以温柔的上帝为寄托,孤零零地走在原野之上。 这时,一个看起来贫困潦倒的男子走上前来说道:“喂,给我点吃的吧,我肚子饿得受不了了。” 小女孩把手里的面包全给了那个男子,并为他祈祷道:“愿上帝赐福于你。”尔后,又继续往前走去。 走着走着,这次有个哭着的小孩跑了过来,对小女孩说:“我头上好冷,感觉快结冰了。给我能戴头上的东西吧。” 于是,小女孩脱下自己的头巾,送给这个小孩。 接着,小女孩又走了一段路。这次遇见的小孩身上一丝不挂,浑身发抖。小女孩看了,脱下自己的上衣,给他穿上了。 又走了一会儿,这次遇见的小孩想要一条裙子,小女孩就把自己的裙子也脱下,送给他了。 不久,小女孩走到一片树林当中。天已经黑了,可这里又有一个小孩过来索要小女孩的打底衫。 纯真无比的小女孩在心里默念:“现在天也黑了,应该不会被人看见吧。好吧,我把打底衫也脱下来给他吧。”最终,小女孩连打底衫也脱下来送人了。 好了,这下小女孩是真的一无所有、赤贫如洗了。这时,繁星突然从远空中纷纷落下,仔细一看,原来那全是闪着银白光彩的泰勒银币。 除此之外,小女孩明明在刚才应该脱了打底衫送人的,现在,身上竟不知何时又穿了一件新的,而且还是一件无比柔软的麻质打底衫。 小女孩捡起那些银币,从此过上富裕的生活。 【故事来自于 青空文庫】
- 夜汽車の食堂
中原中也「夜汽車の食堂」 雪の野原の中に、一条ひとすぢのレールがあつて、そのレールのずつと地平線に見えなくなるあたりの空に、大きなお月様がポツカリと出てゐました。レールの片側には、真ッ黒に火で焦がされた、太い木杭が立ち並んでゐて、レールを慰めてゐるやうなのでありました。 そのレールの上を、今、円筒形の、途方もなく大きい列車が、まるで星に向つて放たれたロケットのやうに、遮二無二走つて行くのでした。 その列車の食堂は明るくて、その天井は白いロイドで貼つてあり、飴色の電燈は、カツカと明あかつて燈つてゐました。其処に僕はゐて、お魚さかなフライにレモンの汁をしたたか掛けて、これから食べようとしてゐたのです。僕が背ろを振り向くと、会計台の所には、白い上衣のボーイが一人立つてゐて、列車の動揺に馴れ切つた脚あしつきで、でもシヤチコバつて立つてゐるのでありました。僕のほかにはお客は誰も居なく、どうしたことか、女給も一人も見えないのでした。 僕が美味おいしい美味おいしいと、そのお魚フライを食べてゐると、やがてツカツカと、白い大きいベレーをかぶり、青い洋服に薄い焦茶のストッキングをはいた、大きなアメリカの小母さんが這入つて来ました。そして僕の耳を引つ張つて、僕の頭を揺すぶりながら、「そんなにレモンをかけて食べる人ありますか!」と云ふのでした。 僕は怖くなつて、とてもそのアメリカの小母さんの顔が見てはゐられなくなつて、窓の方に眼を向けると、雪の原には月が一面に青々と光つて、なんだか白熊たちは雪達磨ゆきだるまをこしらへてゐるのでした。 汽車は相変らずゴーツといつて、レモンは僕の目にしみて、僕はお母さんやお父さんを離れて、かうして一人でお星の方へ旅をすることが、なんだか途方もなくつまらなくなるのでありました。 汽車はゴーツといつて、青い青い雪の原を、何時までも停まらず走り続けました。 僕は段々睡くなつて、そのうち卓子の上に伏せつて眠りましたが、するとお庭の椽側のそばの、陽を浴びた石の上で、尾を立てたり下ろしたりしてゐる、プチ公(犬の名)の夢を見るのでした。女中ねーやはこれから郵便局に、手紙は出しに行つて来ると云ふのでした。 冬夜火车餐厅 白雪皑皑的原野之上,一条铁轨延伸而去,消失在地平线尽头。其上方是一轮硕大的皓月,轻轻浮于夜空当中。 铁轨的一侧竖着粗壮的木桩。它们被火烧得焦黑,一字排开,好似在宽慰这条铁轨。 此刻,一辆巨大无比的圆筒形火车宛若一艘冲向星空的火箭,在铁轨之上直劲飞驰。 那辆火车的餐厅明亮宽敞,顶上铺满白色的赛璐珞板,麦芽糖色的吊灯咔嗒咔嗒闪着亮光,照耀整个车厢。 我身处此间,给炸鱼块浇满柠檬汁,正准备好好品尝。 回首望去,只见收银台前站了一位身着白上衣的服务生。他踩着习惯了列车颠簸的脚步,身姿却显得颇为局促。 这里除我以外再无其他客人,甚至不知为何,连一个女招待都没见到。 我正津津有味地细品炸鱼,不一会儿,一个身材高大的美国妇人带着哐哐的脚步声走进餐厅。她头戴奶白色的大贝雷帽,身穿青蓝色的洋装,腿裹焦茶色的薄长筒袜。 她朝我走来,拧住我的耳朵,摇晃我的脑袋,破口大声骂道:“谁吃炸鱼会浇这么多柠檬汁啊!” 我害怕起来,实在不敢直视那美国妇人的脸庞,只好把视线转向窗外——雪原之上,明月洒下碧蓝光芒,好似有数头北极熊在堆砌雪人。 火车仍在呜呜飞驰。我被柠檬汁辣到眼睛,突然感觉自己离开母父,独自踏上这向星空进发的旅途,实在是太无趣了。 火车呜呜飞驰,在苍蓝的雪原上一刻不停地呜呜飞驰。 我渐感困倦,最终趴到桌上入眠,梦里是庭院檐廊的旁侧,沐浴阳光的石头上。我的爱犬普奇,它正晃着忽起忽落的尾巴。 女佣姐姐经过,她说,她准备去邮局寄信了。 【故事来自于 青空文庫】